2011年6月1日

JPAPでキンバリーがタイラー基金創設を語る

2007 Kimberly Forsythe, Natalie Ferris (Photo by Mori Kohda)

「Japan Partners Against Pain(痛みからの解放のために)」™2011年7月の記事で、理事長のキンバリーがタイラー基金の創設について語りました。

【創設のきっかけ】
 私たちの愛児タイラーが、2歳の誕生日を迎える前に白血病との闘いの末に亡くなったとき、私たちには、2つ選択肢がありました。病院での辛い2年間にピリオドを打つこと、もしくは、私たちの体験を生かし、がんと闘う他の子どもたちや家族の役に立つこと。
 国立成育医療センター(National Center for Child Health and Development: NCCHD/東京都世田谷区)のタイラーの主治医・熊谷昌明先生のお力添えをいただき、また、夫の日本での企業家として経験を活かし、夫の会社のボランティア運営事務スタッフ、法律関係者の多くの支援を得て、2006年6月、小児がんに対する「タイラー基金(the Tyler Foundation for Childhood Cancer)」が設立されました。タイラーが亡くなって1年後のことでした。

【日本の小児がん緩和ケアの現状】
私たちは日本に住む外国人の両親の立場で、タイラーの治療を通じて世界中の医師と話しましたが、NCCHDで受けた医療の質は信頼できるものでした。しかし一方で、日本でがんの治療を受けている子どもたちの多くが大部分の時間を病院で過ごし、物心両面の問題を生み出しているという現状は、私たちの西欧諸国にはないものでした。
 たとえば、もし病気の子どものお母さんが朝8時~夜8時まで病院にいたら、ほかの兄弟姉妹の世話はどうするのでしょう? 日本の病院では、12歳以下の子どもはがん病棟などへ入ることを許されていません。1 年以上も入院生活に明け暮れてストレスがたまり、飽き飽きしている子どもたちをどのように楽しませたらいいのでしょう。どう元気づけますか? 子どもたちの恐怖や戸惑いに対して、あるいは、長い期間病院にいることですっかり疲れ果てているとき、お父さんやお母さんの誰が言葉をかけてあげられるのでしょう? 
 私は自分の息子を病院でケアし、失った経験を通して、病院での小児がんの患者とその家族両方を勇気づけるプログラムが必要だと痛感したのです。

【日本の親の考え方】
 日本でがんの治療を受けている子どもたちが、なぜ治療時間の大部分を病院で過ごさなければならないのか、それには筋の通った説明があります。
1.入院することによって、免疫力が低下した子どもにとって危険な接触感染症のリスクが最小限になると考えられています。12歳以下の子どもが病棟に入ることを禁じられている理由です。
2.がん治療では細菌感染の副作用が多くみられますが、院内ならすぐに処置できます。子どもにとっては病院のほうが安全で安心できると
感じている親たちもいます。
3.長引く入院の理由として考えられるのは、入院費が国民健康保険でまかなわれること。米国とはまったく異なる状況です(2011年7月現在)。

【医療スタッフにおける問題点】
 日本には、長期間の入院生活だけでなく、患者の看護をする医療スタッフの人数の問題があります。医師-患者の割合は、周知のとおり、他の経済大国と比較して不十分です。病棟看護師の数は、特に夜間では、驚くほど少ないことがあります。たとえば、NCCHDのがん病棟では、夜間は25~28人の子どもたちに対して3人の看護師がいますが、子どもたちの中には、ほぼ15分ごとに看護を要する非常に高度な集中治療を受けている骨髄移植患児2人も含まれています。ちなみに、シドニーのウェストミード小児病院では、夜間、4人の患児に対して1人の看護師がつきます。日本の医療スタッフのレベルは高くチームワークにとても優れていますが、もっと全人的なレベルで患児や家族に対して、話しかけたり看護をしたり、あるいは研究を行ったりするための時間やエネルギーが必要だと私たちは考えています。

【タイラー基金の意義】
 タイラー基金は、患児とその家族たちに対する支持療法の質をさらに高めるために、さまざまなシステムの問題点を取り上げ、利点を吟味し、海外で行われていることを取り入れたプログラムを作るという独特な立場をとっています。
 タイラー基金は、資金集めのユニークなイベントを通して、すべてのプログラムに対してお金を出しています。イベントは、東京マラソンに参加するランナーたちのタイラー基金への募金活動や「スポーツ・エクストラバガンザ(スポーツ界の国際的著名人が参加)」の開催などがあり、日本の地域社会および外国人居住者のコミュニティにおける日本の小児がんに対する認識を促すのに大きな効果があります。そして、ある募金コンサートのとき、この意義をもっと強調していこうと思うようなエピソードがありました。私が講演を終えると、一人の日本人女性が近づいて来て言いました。「あなたは意識されていないと思いますが、子どもを亡くした日本の親たちは、自分の子どもをがんで亡くしたことを受け入れているあなたのことをどんなに力強く感じているか。あなたのお話にどれほど勇気づけられたか。日本の親は人前でそのことを口に出せないでいます。どうかこのお仕事を続けてください。きっと、これが多くの日本人の心を開くことになると思いますから」。日本では、従来のしかるべき手続きを踏まずに、外部からの働きかけによって、もっと迅速に変化がもたらされることは珍しいことではありません。
 私たちの目標は、タイラーが闘った生命力を可能な限り最良の方法で称えることです。それが、日本でがんと闘っている子どもたちのQOLを向上させ、家族とともに輝き続けられることを約束すると信じているからです。

Shine On! ~ 輝き続けよう~ byキンバリー・フォーサイス

JPAP™ (Japan Partners Against Pain) Australia Study Tour 2007 magazine