2006年8月1日

インタビュー:イギリスの伝説的クリケット選手、マイク・ガッティング OBE

イギリスの伝説的クリケット選手、
マイク・ガッティング

マイケル(マイク)・ウィリアム・ガッティング OBE(キングスベリー出身、1957年6月6日生まれ)は、ミドルセックス・カウンティ・クリケットクラブでファーストクラス・クリケットをプレイしていた(1975年〜1998年まで。1983年〜1997年はカウンティキャプテン)、イギリスの元クリケット選手です。1977年〜1995年は、イングランド代表クリケットチームでもプレイし、1986年〜1988年の23試合のテストマッチではキャプテンを務めました。現在はECBクリケット・パートナーシップの専務理事に就いています。

マイク・ガッティングは、当団体のチャリティイベント、スポーツ・エクストラバガンザ2006に参加するセレブリティゲストの1人です。スポーツ・エクストラバガンザでは、スポーツ・セレブリティによる病院への慰問祝宴ゴルフデイクリケットマッチなどが行われます。以下は、タイラー基金の共同創立者マーク・フェリスによる、日本訪問を控えたマイク・ガッティングへのインタビューです。

クリケットを引退後は何をされていましたか?

競技生活を終えた後、数年間はミドルセックスでファーストチームコーチとしてコーチをしていました。そこを離れた後は、テストマッチのスポンサーである NpowerのPR関係の仕事を始めました。MMC(メリルボーン・クリケット・クラブ)委員会のメンバーでもあります。それとクリケット基金。PCA、プロフェッショナル・クリケッターズ・アソシエーションの会長もしていました。ベルグレービア・グループという会社でも仕事をしていました。またレッド・レター・デイズという、ローズの催し物を主催する団体でも働いていました。それにグラン・クリュ・トラベルというクリケットツアーを行う会社でも働いています。というわけで、忙しくしていますね。あとはテストマッチ・スペシャルを通じてBBCでも働いていますし、サンデー・オブザーバーに記事も書いています。

わあ!それで最近はそれほど活動していないというのでしょうか?!

(笑う)全然ですよ!それと、その合間にタバナーでクリケットをプレイしてますし、その他のことも少ししています。

ロード・タバナーについて少し教えていただけますか?

もちろんです。タバナーは年間およそ200万ポンドの基金を集めます。スポーツをしたい身体の不自由な子、例えば車いすの子ども達などに、様々なものを寄付しています。大きな緑色のバス、タバナーバスというのですが、これを毎週1台寄付しています。タバナーでは、ここ2年半プレイしています。次の4月で私の任期は終了になります。

では、チャリティのために働くことを楽しんでいらっしゃるんですね?

そうですね、クリケットに何かをお返しができればと思うようになりました。例えばクリケット基金では、「チャンス・トゥ・シャイン」という活動で、現在5 年間で2500万ポンドを集めようとしていますし、政府もそれに協力するところです。これはすべてECB(英国クリケット委員会)と連携しています。公立学校の授業にクリケットを復活させようとしているんです。いま実際に行っているのは、毎年100のクラブを6箇所の学校と提携させることです。6つの学校がそれぞれ1つのクラブと連携することになります。10年間で、1000のクラブと6000校の学校をすべて提携させて、公立学校のシステムにクリケットを復活させたいと思っています。

すばらしい!ご自身の輝かしい経歴についてですが、一番思い出深かったことは何でしょうか?

初めてローズでプレイしたときでしょうね。子どもころはクリケットといえば、ローズに行って試合を見て、ということだったのに、突然、自分が試合をするチャンスに恵まれたんですよ!あの場所に関われるだけでも、本当に最高なんです。また、そこに初めて出場したこと、そしてミドルセックスでプレイしたこと。それからローズでイングランド代表のキャプテンを務めたこと。そういったこと全てです。もちろんAshesシリーズでの素晴らしい試合もね。キャプテンを務めたこと、オーストラリア戦に勝ったこと。素晴らしい相手とクリケットで戦ったこと。1985年にボンベイで初めて1試合100得点を成したこと。これを実現するのには長くかかりました。そうしたこと全てですね。

素晴らしいマイルストーンですね!ではバッツマンとして、一番尊敬していた、または恐れていたボウラーは誰ですか?事前にインターネットで調べてみると、ひどいボウリングについての記事では、あなたが1球を受けた1985-86年シリーズのマルコム・マーシャルとの出来事について書かれていましたよ。

そうですね、あれはひどい投球でしたね!ひどいボウラーも何人かいましたが、とても上手いボウラーもいましたよ。シルベスター・クラークは最も対戦したくない選手の1人です。コリン・クロフトも、彼のあのアクションがとても難かったです。マイケル・ホールディングみたいな選手はテンポが難しい。アラン・ドナルド。イムラン・カーン。マルコム・マーシャル、リチャード・ハドリー。たくさん居ますよ。パトリック・パターソン、アンディ・ロバーツ、ジョエル・ガーナー…。20、30人ものリストを挙げられますよ。本当に難しかった。もちろん状況に応じて機転をきかせなくちゃいけません。しかし一度始まってしまえば、素晴らしい対戦でしたよ。

スピナーについてはどうですか?

そうですね、スピナーもやはり、何人かとても優れた選手と対戦しました。リッチー・ベナウドは優れたスピナーでした。そしてベディ、チャンドラセカール、グリーソン、ムシュタックなどの選手。でもやはり思うのは、おそらく我々は80〜90年代を通じてラッキーだったんです。アブドゥル・カーディルや、シェーン・ワーン、サクレイン、ムラリタランよりも優れたボウラーがいるとは思えません。

スピナー…我々がプレイしていた期間を通じて、常に素晴らしい選手がいました。その中でも最高の選手は、おそらくシェーン・ワーンであると言わざるを得ないでしょう。アブドゥル・カーディルもそれにほぼ並びます。時がめぐって、今はムラリタランが唯一のフィンガースピナーですが、この人はとても厄介ですね。レッグスピンは、また完全に別の技術なんです。左腕のフィンガースピンは難しいもので、ベディはグレッグソンと並んで最高の選手の1人でしたね。こうした選手達の右にでる者はいませんでした。バットの周りに人が2人も3人も4人もいるとなると、また違う意味での難しさがあります。特にインドには魅力的な選手がたくさん居ました…かなり異なる難しさでしたね。

キャプテンの話に移りましょう。あなたの平均バッティングは、キャプテンでないときは32でしたが、キャプテンのときは44でしたね。キャプテンを務めることはどのように試合に影響を与えましたか?

私は1985年から1987年にかけて良い時期を体験しました。それまでは20前後でしたが、なんとか1試合40程度まで上げることができて、そのあと 1993年から1995年にプレイした最後の数テストマッチでは36か35に下がりました。1986年から1988年までキャプテンをしていましたね。

対戦相手の、または自分のチームの素晴らしいキャプテンといえば、誰が思い浮かびますか?

マイク・ブレアリーは、共にプレイしまたは対戦した中で、間違いなく最高のキャプテンでした…。アラン・ボーダーは当時成長中で、素晴らしいキャプテンになる途中でしたね。スニール・ガヴァスカールは、私が対戦したときのインドのキャプテン、…イムラン・カーンはパキスタン…。ニュージーランドへは3回遠征しましたが、毎回キャプテンが違いました。

クライヴ・ロイドは?

ロイディ!どんなキャプテンもクライヴ・ロイドのチームのようなチーム、またはボウリング攻撃を欲しがるでしょうね…。彼は選手の1人にボールを投げて、「よし、お前たち2人が1時間投げて、それから交代して、お前達2人が出て1時間投げるんだ!」とか、そんな感じでしたよ。真のスピナーがいなかったんですね。素晴らしいキャプテンに関して言うならば、クライヴ・ロイドにあったのは、素晴らしいチームだったと思います。チームを鼓舞して1つにまとめることも、彼は上手かったですね。というのも、西インド諸島代表はいつでもバラバラで、私が思うにクライヴ・ロイドが成した1つの偉業は、チームを1つにまとめ続けたということ…1つのチームとして西インド諸島のためにプレイするということですね。常にちょっとした内輪もめがありました…それが彼を素晴らしいキャプテンにしたんだと思います。彼には素晴らしいチームがあった。そしてあらゆるキャプテンがこう言うと思いますが、そこにチームがなければ、キャプテンとしてどれほど優れているかどうかも問題になりませんし、より優れたチームと対戦する場合にも、キャプテンにできることはあまりありません。

では、何がマイク・ブレアリーを屈指の名将としたのでしょう?

マイク・ブレアリーはとても優れたキャプテンでした。でも要は70年代のミドルセックスで、彼にとても良いチームがあったということでしょうね。それともう一つは、彼がプレイしていたときは、とても若い頃のイアン・ボーサムがいたし、その当時は素晴らしいクリケット選手がたくさんいました。また彼のイングランド代表でのキャプテンぶりも素晴らしかった。彼自身のバッティングフォームはそれほど良くはなかったのですが、イングランド代表の彼のキャプテンシーは素晴らしかったです。不良だったボス(イアン・ボーサム)のような選手、それと同時にその他の選手からも尊敬を集めていた。というのも彼が選手たちと人間同士の付き合いをしていたからでしょうね。彼は本当に…彼はときどき直感で行動するものでした。よく「本当にこれをやりたい気がするんだ」と言っていましたし、実行に移すのを怖がることはなかったですね。普通のフィールド配置を止めて、何か新しいことをしようとしていたし、人を出し抜くことも考えていた…。

それと、例えば、私自身にも関わるようなことがありましたね。私はとても若くて、おそらくフィールド上で少し退屈そうで、興味が無いような、集中できていないような感じに見えたんでしょう。マイク・ブレアリーが私に「ガット、ボウリングについてどうしたらいいと思う?」と言ってきたんです。私は「何だって?」となって、それから「驚いたな!」と思いました。それから急いで考える羽目になりましたよ!!それから急に、マイク・ブレアリーが再び私に質問してくるといけないので、私は試合に集中するようになりましたが、それと同時に「おどろいたぞ、19才のこの俺に、どうすべきか聞いてきたんだ」って思っていました。彼は実際、私に自分がチームの一員であることを自覚させ、そして突然まるで別人のようにプレイさせたわけです。彼はそういうことに長けていました。

良い話ですね。では来たるAshesシリーズですが、どのようにお考えですか?

イングランド代表は良いプレイをすると思います。うちの選手が全員調子が良ければ、また優勝できるでしょう。現在若い選手が数人参加しています。プランケットとマフムードは対スリランカ戦で非常に良いプレイをしました。…今はより幅広くて深い選手層を構築しようとしているところなんです。今のところ、おそらくオーストラリア勢よりも優れたボウラーが揃っていると思います。そして、それがテストマッチに勝つのに必要なことだと思います。

気がついたのですが、最近はチケット販売に物凄い関心が寄せられていますね。テストクリケットでこうしたことが起きているのは良いことですよね?

オーストラリアがチケットを販売開始したら、最初の1時間で17万枚のチケットが売れたそうです。誰もがこのテストシリーズを見たがっているんでしょうね。桁外れのシリーズになりそうです。

現地に見に行きますか?

ええ、私の旅行会社のグラン・クリュと共に、第2回、3回、4回、5回のテストマッチへ行くつもりです。

日本にいらしたことはありますか?

いいえ、ありません。もちろん日本については色々と目にしますし、日本の素晴らしい文化を体験するだけでも楽しい旅になりそうです。どれほどの違いがあるのかを知るのにとても興味があるんですよ…日本でするべきこととするべきでないことについて、いくらか調べておいた方が良さそうですね!!人と会ったときと、人とビジネスを行うときとで、異なる作法があるんでしょう。そういうことがとても興味深いように思えます。

ここにきて10年以上たちますが、私たちもまだ解明中ですよ!

(笑い)

近ごろMCCと共にアフガニスタンに行きましたか?

いいえ、アフガニスタンには行きませんでした。実際にはムンバイでアフガニスタンのチームと試合をしました。警察競技場で試合をしたんですが、実際アフガニスタンにはとても優れた選手が何人かいますよ。

審判について話を移しますが、現代の試合では審判はどのように変わったと思いますか?現段階で、審判についてはどのようなお考えをおもちですか?

現代の試合では、審判は物凄いプレッシャーにさらされていると思います。それと、彼らは段々と上手くやってきていると思います。…いつでもビデオを見て、まさに必要なものを見ることができます。一方で以前は、審判はビデオを見ることはありませんでしたし、クリケット選手も同じくです。ですが、ある日突然ビデオが導入され、バッツマンが自身や他の人のゲームを細かく分析できる一方で、審判も試合中に下した判断やその時の考えについて振り返ることもできますし、リプレイをみることも、違う試合の映像を使って自らの判断を検討することもできます。そうしたことからたくさんの良いことが生じていますよね。

試合からたくさんのスパイスを抜いてしまったと思う2つのことは、ランアウトとスタンピングですね。かつては「今のはアウトか」「アウトじゃないか?」という議論をたくさん引き起こしていたと思います。こうしたことも今や実に明快です。それとも99.5%は明快だと言うべきでしょうか。第3審判でさえ間違うこともあります。どうしてそんなことがありえるのか分かりませんが、実際にありますね。でも全般的に言えば、審判は優れていると思います。1つだけ意見を言うとすれば、ノーボールについてです。というのも、もう少し統一できると思います。一部の審判はノーボールについて熱心ですが、一部の審判はそうではありません。全般的に言えば、常に改善の余地はありますし、誰かがいくつか見逃した場合は指摘されるべきですし、矯正されなくてはなりません。

ご存じのように本当に優れた選手たちの一団が日本にやってきます。たとえば南アフリカのクライヴ・ライスとか。彼についてはどのようにお考えですか?彼はそれほどテストクリケットでプレイしていませんが、彼がノッティンガム州に居たときに、かなり対戦しましたよね?

ライシーは並外れたクリケット選手だと思います。本当にそう思いますよ。彼はあの選手達の1人…私がMMCの100周年記念テストマッチに出場したとき、彼は私のチームにいました。クライヴ・ライスのような選手を味方につけるということ…彼は才能に溢れていた…。残念ながらテストクリケットでは活躍できなかったが、そうしてもおかしくなかったというクリケット選手は本当にたくさんいるんです。リチャーズ、ポロック、バーロウのような選手…いくらでも挙げることができますよね?イギリスでは見ることができるけれども、テストアリーナでは見たことのないクリケット選手達。ですから、私の意見としては、ライシーもテストマッチに出ていてもおかしくありませんでした。おそらくボウラーというよりも、バッツマンとして優れていたのでしょう。ライシーのような選手とは対戦するのが楽しいんです。精力的で才能がありますからね。彼は、誰かが成長したがっていたらそれをサポートするようなクリケット選手でした。彼は何もあきらめなかった。とてもタフな性格で、クリケットを楽しんでいましたね。

では、ガット。ご意見を聞かせていただき、ありがとうございました。日本でお会いできるのを楽しみにしています。

どうもありがとう!