ある晴れた土曜の午後、生後1ヵ月の息子が白血病だと医師から告げられました。あっという間の宣告でした。「赤ちゃんも白血病に罹るの?」愚かにもそんな質問を私は医師にしていました。小児がん病棟に足を踏み入れてすぐわかったのは、赤ちゃんは白血病だけでなく様々な種類のがんにも冒されるのだということでした。白血病(血液のがん)は子どもが罹るがんのうち最も多いものですが、難しい名前が付いたがんも信じられないほどたくさんあり、闘っている子どもたちの年齢も様々です。その難しい名前のがんに罹ると、本人も親も医学部の学生が羨むほどの速さでその病の専門家になります。
タイラーの病気がわかってからしばらくの間、我が子ががんに罹ってしまう私のような親なんてすごく珍しいにちがいないと思っていました。幸いにも一般的にはそう言えるでしょう。でも小児がん病棟には、たくさんの子どもとその親が、励まし合い、慰め合う姿がありました。がんを患う子どもは皆特別な存在です。そして、とても勇敢で驚くほど立ち直る力を持っています。
それまで元気だった子どもががんだと診断されたら心が打ちのめされます。入院していなければその子が楽しめるであろう様々なことを考えると心が痛みます。次から次へと施される治療に、たとえそれが運良く病気を治してくれるものだとしても、勇敢に立ち向かう子どもたちの姿を見るのは心が張り裂ける思いです。そして、治療法がないことがわかった時は、それはそれは悲しい思いをします。
日本の医療は確かに質が高いのですが、日本ではリスクを最小限にとどめるために患者は治療期間中のほとんどを病院で過ごすことになります。それは9ヵ月から1年と長いものです(息子の場合は2年近くになりました)。ほとんどのがんの子どもは、常に苦痛にさらされているというわけではありません。治療の間中、彼らは何とか生活を楽しもうと本当にあらゆる努力をしています。でも、病院では時がゆっくりと過ぎていきます。気晴らし、ちょっと寄りかかれる肩や希望のひとかけらが支えなのです。健康な3歳の子どもでも、新しいおもちゃや初めて行く場所には大喜びします。ひとつの病棟にこもりっきりの子ども、化学療法を受けてベッドから出られずにいる子ども、単調な日々を送る彼らにとっては、ほんの小さなことが刺激や喜びになるのです。
外国人の私は日本の病院でコミュニケーションを取るのに四苦八苦していました。そんな私に、病院のスタッフや他の親御さんたちはたくさんの愛情と支援をくださいました。感謝の気持ちでいっぱいです。でも彼らだって大変なのです。看護師さんたちは忙しく、他のお母さんたちは私と同じように怯え、疲れていました。そして、病院の外にいる健康な子どもを持つ親は、非常に重い病気の子を持つ親たちが毎日何を考え、どんな気持ちでいるのかを真に理解することはできなかったのです。それは期待するわけにはいかないことです。そうわかっていても、私のような親の多くは、誰かに話を聞いて欲しくてたまらないのです。子どもたちは単調な生活に変化が欲しいと強く思っています。そして、誰もが最新の研究結果の朗報を心から待ち望んでいるのです。
がんの治療を受けている子どもたちは助けを必要としていますし、もっと支えを受けるべきです。それは彼らの親たちにもいえることです。タイラー基金は、子どもたちを笑顔にさせ、親たちを支え、また医師の研究を資金援助することで皆に希望を与え、日本の医療がより良いものとなるよう支援したいと思っております。
がんは私にたくさんのことを教えてくれました。その多くが初めは決まり文句にしか聞こえなかったのが、最後には真実となりました。基本の一つは一日一日を大切に生きること。タイラー基金も一歩ずつ、一日ずつ、前進し輝き続けます。シャイン・オン!
私たちは何と恵まれているのだろうか。悲しく、どうすることもできない出来事からさえも何か素晴らしい物が生まれ出ようとしている。そのことに我々は感謝しなければならない。タイラー基金は、幼い時期にがんに罹ってしまった多くの人たちの生活を変えることができるだろう。私たちのイベントのスポンサー、オーガナイザー、支援者、有名人を含めたイベント参加者も、他の人たちのために何かをすることで得るものがあるだろう。熱意を持つ人たちが集まり、様々な活動を通して誰かを助けることができる。タイラーの短い生涯がもたらした恩恵だ。タイラー、このような機会を与えてくれてありがとう。シャイン・オン! 輝き続けよう!
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